乳腺内分泌外科

東京大学医学部附属病院 胃食道・乳腺内分泌外科

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甲状腺腫瘍について:

甲状腺乳頭癌、甲状腺濾胞癌、甲状腺未分化癌、甲状腺悪性リンパ腫、甲状腺髄様癌、バセドウ病などがあります。

1) 甲状腺乳頭癌とは

甲状腺癌のなかで一番頻度が高いのが乳頭癌という種類の癌です。甲状腺悪性腫瘍の約90%を占めます。乳頭という名前は、病理学的に癌組織が乳頭状に発育するという特徴から名付けられていて、乳房とは関係がありません。甲状腺癌は胃がんや肺がんに比べ癌の増殖速度は遅く、きちんとした外科治療を行えば5年生存率は90%以上と良好です。ただし、癌ですので緩徐ではありますが腫瘍は確実に増大浸潤します。
甲状腺の周囲は気管、内頸静脈、総頚動脈、反回神経という声を出すのに必要な神経等、生命の維持や日常生活を送るのに必要な臓器が隣接しているため、癌が進行して甲状腺の周囲に広がると、次のような症状が出ます。

1.気管に癌が浸潤した場合:血痰、咳等気管刺激症状。呼吸困難。
 2.癌が周囲の血管に浸潤した場合、顔面がむくむ。
 3.反回神経に浸潤した場合:嗄声(声のかすれ)誤嚥(むせ)
 4.食道に浸潤した場合:嚥下障害(食べ物を飲み込む時にのどにつかえる)等の症状


このように他臓器に浸潤していない場合でも、頚部周辺のリンパ節へ転移する頻度が高く、さらに進行すると遠方の肺、骨、肝臓、脳などへ転移を起こすこともあります。

診断について:甲状腺腫瘍が疑われた場合には、まず超音波検査を行います。超音波検査は数ミリの病変でも検出できる最も精度の高い検査法です。乳頭癌が疑われた場合、超音波を見ながら細い針を腫瘍に進入させ、細胞を吸い取る検査を行います。この検査で、腫瘍の性質がかなりの正確さでわかります。

転移の検索には、CTやシンチグラフィーを行うことがあります。甲状腺乳頭癌は、多くは甲状腺組織の性格を持っていて、ヨードを腫瘍内に取り込む働きがあります。したがって、ヨードシンチグラフィーという検査で全身の広がりがわかるのです。ヨードシンチグラフィーの代わりに、検査の簡便なタリウムシンチグラフィーを行うことがあります。また、最近は腫瘍PET検査が普及していて、当院でもPET検査により転移の検索を行っています 。

手術適応について:
―――症状がない癌の場合:
大きさが1cmを超えるとリンパ節に転移する症例が出てきます。一般的に乳頭がんの場合、1cmをこえると手術適応となります。しかし1cm以下の大きさの癌の手術適応については全国的な専門学会でもまだ一定の見解は出ていません。1cm以下の乳頭がんでもリンパ節転移をきたすことがあり、当院では超音波検査で頚部のリンパ節の腫大が確認できれば、手術をお勧めしています。甲状腺乳頭癌は、年齢が高いほど悪性度が上昇することが知られています。これは、担癌状態(癌を抱えている状態)が何十年にもわたり長く続くと、次第に癌の性格が変化するからと言われています。病理学的な分類ですが、低分化癌、未分化癌というタイプへ転化すると、腫瘍の急速な増大、転移が起こります。いままでおとなしかった腫瘍が、突然手のつけられないような急激な増大転移を起こし、手術でも取りきれないような状態へ変化することがあるのです。したがって、中高年〜高齢者の甲状腺乳頭癌の場合は、まず手術で腫瘍を摘出することをお勧めしています。

―――他臓器に浸潤している場合:
甲状腺乳頭がんは他の癌のような抗がん剤が奏功しないため、基本的には外科治療が第一選択となります。浸潤による症状がない場合、手術により確実に病巣を取り去ると、合併症を残さずに治る可能性が高いのですが、一方他臓器に浸潤し、何らかの症状が出ている場合、その臓器も切除する必要があり、術後に切除をした臓器の欠損による後遺症が残る可能性があります。しかし、手術により確実に病巣を切除できればその後再発しない可能性はあります。

―――他臓器に転移している場合:

甲状腺はヨードを集める特徴があります。甲状腺から発生した癌も同様の性質があるため、放射線を放出する放射性ヨードを体内に入れると、甲状腺や癌に集まり、細胞に取り込まれ、ここで放射線を出し続けるため、がん細胞や甲状腺細胞が死んでいきます。この原理から131ヨード内照射療法という治療が確立されています。ただ、この治療を行うには正常な甲状腺がないことが条件です。せっかく癌に取り込ませようと体内にいれた放射性ヨードが、正常な甲状腺にも集まってしまうためです。従って、この治療を行う前に甲状腺全摘術を行う必要があります。甲状腺を全部摘出した後に、放射性ヨードを内服すると、甲状腺癌の転移先にヨードが集まり治療効率が上がります。

甲状腺癌の手術について:

前頸部を切開して、気管の上の臓器を操作することは、手術を受ける立場に立つと、たいそう怖く不安が付きまとうものでしょう。しかし、手術侵襲は軽度で、意外にも頚部は、術後の疼痛も軽い場所です。鎖骨のすぐ上方を最小限度の切開を置き操作します。手術創は、細いナイロン糸で皮下の連続縫合を行い、針穴を皮膚に開けません。したがって、手術創は1本の細い線として残りますが、6ヶ月〜1年後には正面から見ても手術創ほとんど目立たなくなります。

甲状腺癌が左右のどちらかに限局している場合、一般的には甲状腺亜全摘術を行います。甲状腺は左右に葉があり、中央の気管の上は峡部という薄い組織で覆われています。甲状腺亜全摘は腫瘍側の甲状腺と、反対側の下側一部を切除します。乳頭がんは頚部のリンパ節に転移しやすいので、これに加えて、頚部のリンパ節を切除します。(これを郭清と言います。)
甲状腺の腫瘍が大きい場合や反対側にも病変がある場合には、甲状腺全体を切除する甲状腺全摘術を行います。この場合もリンパ節郭清を追加します。

手術による合併症:
甲状腺手術により次のような合併症が起こる可能性があります。その理由は、甲状腺周囲には細かい神経や脈管が多いこと、甲状腺の裏側に上下左右に4個、副甲状腺というカルシウム代謝をつかさどる米粒大のホルモン産生臓器があること、甲状腺そのものがホルモン産生臓器であること、によります。癌が周囲へ進展しているほど、術後に合併症が発生しやすくなります。

比較的頻度の高い合併症:

1:声を出す神経、反回神経の一時的、あるいは永久性麻痺:
A:手術操作による接触により神経が一時的に麻痺することがあります。術後、水分の摂取時にむせたりします。また、声がかすれたりします。通常術後1週間から1ヶ月のうちに軽快します。
B: 癌の進展により神経を犠牲にせざるを得ない場合があります。この場合神経を癌とともに切除しますので、声のかすれは生涯続きます。
C: 細心の注意を払って手術に臨んでいますが、熟練の術者でも、手術操作中に神経を切断してしまうことがあります。これは、神経の走行や太さにバリエーション(個人差)があるためです。術中切断が判明した時点で神経縫合を行います。これにより1−2年の時間がかかりますが、声帯の可動性が回復する場合があります。

手術する立場(外科医)から:甲状腺は、気管と反回神経に覆いかぶさりじん帯で固定されている臓器です。細い神経組織を探し、保護しつつ甲状腺を切除する操作は、この手術を多く経験している外科医でも細心の注意、集中力を要します。この手術が、経験豊富な甲状腺外科専門医により行われる必要があるのはこのためなのです。

:術後カルシウムが低くなり、口の周りがしびれたり指先が硬直したりすることがあります。これは、上皮小体(副甲状腺)というカルシウムを保つホルモンを産生する臓器の血流が一時的に悪くなったり、場合により甲状腺とともに取れてしまうことがあるからです。術後にカルシウム剤を補充していただくと、このような症状を起こすことがなく経過しますので、このお薬を処方いたします。甲状腺術後はほぼ全員に低カルシウム血症が認められますので、処方薬は必ず服用してください。
手術する立場(外科医)から:米粒より小さい副甲状腺組織を見つけて、保護することも、経験と注意力が必要となります。

.甲状腺機能低下症、甲状腺そのものが小さくなるか、なくなってしまいますので、ほぼ全症例で甲状腺機能低下が起こります。甲状腺機能低下はすぐに対処する必要性はありませんが、長引くと全身にむくみが生じたり、体温が低くなったり、肺や心臓に水がたまったりします。このため、カルシウムと同様甲状腺ホルモン剤も処方いたします。残存甲状腺の機能の回復は遅く、完全に代償されることは少ないです。長期間の甲状腺ホルモン剤の服用が必要となることが多いです。

.喉の違和感、飲み込み時のつかえ感:気管や食道の周囲を術操作しますので、術後これらの臓器と周辺筋肉が癒着し、このような症状を引き起こします。これらの症状は長い場合、術後1−2年続きますが、しだいに軽快します。

.上喉頭神経麻痺:甲状腺の上側にこの神経があります。甲状腺腫瘍が大きい場合、手術操作上この神経が麻痺したり、切断せざるを得ない場合があります。この神経の麻痺により声帯の緊張が低下し、大声で誰かを呼ぶことや長電話をすることが困難になります。

起きる頻度が少ない合併症

.リンパ液貯留:術後4−5日はリンパ液が術野に流出します。これを回収するためビニールのチューブを気管のわきに置き、リンパ液をバッグに回収します。通常は術後4−5日で管を抜きますが、太いリンパ管よりリンパ液が漏れ出すと、1日500ml以上の液が漏れ出すことがあります。特に左側の頸部リンパ節を郭清すると、時に胸管という太いリンパ管の枝から大量の白色な液体が流出することがあります。これを、乳び漏といいます。こういう場合には再び創を空けてリンパ管を縛る操作をせざるを得ないことがあります。

.副神経麻痺:頚部の外側に副神経という神経があります。この神経は、僧帽筋という肩から背中を覆う筋肉の動きをつかさどっています。頚部のリンパ節の郭清にともなってこの神経が麻痺することがあります。この神経のまひにより肩の筋肉が萎縮したりすることがあります。

.喉頭、声帯浮腫:麻酔に伴う気管内挿管や、気管周囲の手術操作により気管、喉頭、声帯にむくみが出ることがあります。多くは術直後に生じます。声帯がむくむと息が出来なくなり、窒息してしまいます。このため、この症状が出たらすぐに気管に管を入れます。気管に管をいれると呼吸は出来ますので窒息の心配はなくなりますが、気管の反射が起こり咳き込んで苦しくなります。このため、反射を抑える薬を投与します。多くは24時間以内にむくみは消失しますが、長引く場合には一時的に気管を切開し、弁つきのチューブを気管に挿入します。声帯を観察しつつ浮腫が改善した時点でチューブは抜きます。抜いた後の気管の穴は1−2日で自然に閉じてしまいます。

.後出血:甲状腺腫瘍の手術に限らずあらゆる外科治療で、創を縫って手術が終了した後、手術をした場所で出血が起こることがあります。これを早期に察知するため上記のチューブからの出血を観察します。後出血の兆候が明らかになったら、止血のため再び創を空けて止血します。

10.食道、気管切除:癌が食道や気管に入り込んである場合、気管や食道の一部を一緒にとることがあります。こういう手術をした場合、術後に一定期間、気管内に管を入れておくことがあります。この場合、反射を抑えるための薬を投与しますので、自分で息が出来なる駆ることがあり、人工呼吸器につなげて呼吸を補助することが必要となります。また、食道を切除して縫合した場合、食道の縫い目に負担をかけないため術後1週間くらい食事が取れない場合があります。この場合、点滴で栄養分と水分を補います。縫合した食道の治りが悪い場合そこから飲み込んだものがもれ出ることがあります。これを縫合不全と言います。この場合、点滴で栄養分、水分の補給を行います。多くの場合は1ヶ月前後で治ります。

退院してからの注意事項

甲状腺腫瘍の切除後、特に癌の場合再発の早期発見が重要です。頚部のリンパ節に再発してくることが多いため、外来で半年―1年おきに超音波検査を行います。また、再発の兆候を血液で捕らえるため定期的に血液検査で、サイログロブリンという蛋白を測定します。
甲状腺腫瘍はTSHという脳下垂体からでる甲状腺刺激ホルモンに依存して大きくなるといわれています。このため、血中のTSHを常時下げておく治療法が選択されます。血液中の甲状腺ホルモンが高くなると、TSHの出かたが弱くなるという性質があるため、チラージンという合成甲状腺ホルモン剤を飲んで血中甲状腺ホルモンを高値に保ち、TSHを低くおさえる治療がよく行われます。この薬剤は、足りない甲状腺ホルモンを補うためだけの薬で、サプリメントと考えていただいて結構です。当科でも甲状腺腫瘍の術後の患者様にはチラージンを1日1−2錠処方しています。チラージンは副作用もほとんどなく、安価な薬で、1ヶ月分300円程度のご負担です。


予後:

手術で完全に取りきれている、
 病理検査で、分化度が高い。
 3cm以下の大きさ
 リンパ節転移がないか少ない

―――場合は、良好な予後です。

 

2) 甲状腺濾胞癌とは

甲状腺乳頭癌についで多いタイプの悪性腫瘍です。濾胞腺腫という、通常見られる良性腫瘍と鑑別することが難しく、術前の画像検査や穿刺細胞診では確定診断の決め手がありません。診断の助けとなる所見は、

  1. 急に大きくなった腫瘍
  2. 血液中のサイログロブリンが1000より大きい
  3. 細胞診でクラス3という結果が出た
  4. 腫瘍の大きさが3cm以上ある
  5. エコーで形が不整で、血流が豊富である

などから、類推することは可能です。
 最近では腫瘍PET検査を併用することがあります。

確定診断は、切除した標本を病理学的に検査して初めて得られます。

従って、上記の条件を満たす腫瘍が甲状腺にある場合は、外科的治療をお勧めすることになります。

--―甲状腺濾胞癌の外科治療:頻度は全甲状腺悪性腫瘍の7-10%程度です。
手術前に良性の濾胞腺腫と濾胞癌を鑑別することは大変難しく、専門家でも術前の診断を確定することはできません。診断は切除、摘出標本の病理検査で決定されます。病理学的には濾胞癌は濾胞腺腫にきわめて類似していて、病理学者でも判断に迷うケースがありますが、一般的には、腫瘍が血管やリンパ管などに浸潤している場合、腫瘍の外側を包む膜をはみ出して進展している場合、などの所見をとらえて癌と診断します。このようなことから、手術では良性と診断されたのに、後で転移を来たすことも稀ではありません。

このタイプの癌は、乳頭癌に比べてリンパ節転移を来たすことは少なく、血流を介して骨、肺、肝臓、などの遠隔臓器に転移する性質があります。したがって、手術ではリンパ節郭清はしません。浸潤が大きい場合、すでに転移がある場合には甲状腺全摘術を行います。

予後:分化度が高く、転移がない場合、予後は良好です。転移が明らかな場合は、甲状腺が残っていれば残った甲状腺を切除します。その後は131ヨード内照射療法を行います。この治療は甲状腺癌の転移に特異的な治療で、かなりの奏功が期待できます 。

 

3) 甲状腺未分化癌とは

全甲状腺悪性腫瘍の1-2%で、頻度は少ないのですが極めて悪性度の高い癌です。自分では気がつかなかった潜在的な乳頭癌が、未分化転化してしまうと、このタイプの癌になることが知られています。したがって中高年〜高齢者に多く見られます。多くは発見された時には周囲の組織に浸潤し、かつ広範な転移を来たしていて、根治手術が出来ません。抗癌剤や放射線も奏功しないケースが多く、残念ながら発見されてから6ヶ月〜1年で死亡する症例がほとんどです。
頚部のしこりが急速に大きくなった、痛みを伴う、熱感を持つ、これらの状況に合わせて全身の発熱、微熱が続く、などの症状が特徴的で、このような症状が出たらすぐに専門病院を受診しましょう。

甲状腺未分化癌を早期に発見、治療することは至難の業です。しかし、この極めて悪性度の高い癌を予防することは出来ます。それは、甲状腺乳頭癌を早めに発見して、治療することです。そのために、甲状腺の超音波検診は重要です。

甲状腺乳頭癌の治療は、ある意味では将来未分化癌になることを予防する治療でもあるのです

 

4) 甲状腺悪性リンパ腫とは

やはり全甲状腺悪性腫瘍の1-2%で、頻度は少ないです。多くは橋本病(慢性甲状腺炎)を抱えている人に発生します。やはり前頸部に急速に増大するしこりとして自覚しますが、腫瘍は比較的やわらかく、限局性です。未分化癌に比べて予後は良好です。超音波所見で特徴的な像を示しますので、専門医がみれば診断は容易ですが、組織を調べないと確定診断はできませんので、悪性リンパ腫が疑われた場合、腫瘍の一部を摘出する生検という小手術を行うことが多いのです。一旦診断がつけば、放射線治療と化学療法(抗癌剤)を行います。多くの悪性リンパ腫はこの治療で消失します。

5) 甲状腺髄様癌とは

甲状腺髄様癌は、甲状腺悪性腫瘍の2−3%に見られる珍しい腫瘍です。多発内分泌腺腫症という遺伝性の疾患に見られることがあり、この場合は副甲状腺や副腎に同時にまたは漸次腫瘍が出来ることがあります。もちろん、遺伝性ではなく散発性に髄様癌が発生することもあります。
甲状腺髄様癌は、甲状腺C細胞という細胞から発生する癌で、カルシトニンという蛋白を分泌します。ほかにCEAという蛋白も分泌するので、この二つが特徴的なマーカーとなります。

治療、予後は甲状腺乳頭癌とほぼ同じです。しかし、多発内分泌腺腫症という遺伝性の疾患が明らかとなった場合には、他の臓器の精密検査や厳重な監視が必要となります

6) バセドウ病にてお困りの方へ

バセドウ病は、甲状腺が腫大し、甲状腺ホルモンを多く分泌してしまいさまざまな症状が出現する病期です。甲状腺刺激ホルモンに対する自己抗体が出来てしまうことにより、甲状腺がホルモン分泌を増やしてしまう病態が原因です。一種の自己免疫の異常による疾患です。悪性では在りませんが、甲状腺ホルモンの過剰状態で、発汗、熱感、頻脈、手指の震え、下痢、体重減少、脱力、不眠などの症状が出現し、日常生活に支障を来たすことが多いのです。
 バセドウ病は多くはメルカゾールやプロバジールという抗甲状腺剤でコントロールが可能な病気です。しかし、

  1. メルカゾールやプロバジールなどを服用したところ発疹、白血球減少、などの副作用が出現した。
  2. 腫大が大きく、頚部の圧迫症状が強い
  3. 薬剤を服用しても甲状腺機能が低下しない
  4. 仕事が忙しくて薬剤の服用が守れない
  5. 短期間に治癒させたい
  6. 将来妊娠、出産を希望していて、メルカゾールやプロバジールなどの服用が継続できない

などに該当する場合は、手術適応となります。

手術は、腫大甲状腺のほとんどすべてを摘出します。合併症、は上述の通りです。手術により一転して甲状腺機能は低下しますが、術後はチラージン内服により甲状腺機能を正常値に保つようにします

 

7) 最後に

上述しましたが甲状腺は、頚部の気管の前方にある体表に近い臓器で、肺や心臓、腹部臓器と違い、治療そのものによる生体ダメージは少ないのですが、反面神経や細かい血管が多く、この部位の解剖を熟知した経験ある専門医の治療が必要となります。

しばしば「大学の附属病院では、患者が実験されるのではないか」という質問をお受けすることがあります。しかし近年、大学を始め医療現場は、治療に当たって「倫理規定」という厳密なルールを遵守するようになっています。東大病院でも、学内の「倫理委員会」という組織が、治療を研究対象とする場合の厳密なルール作りを行い、監督しています。これにより、治療行為を安易に研究目的で行うことは出来なくなっています。かりに治療データを研究などで使用する場合には、「倫理委員会」の承認を得て、さらに患者様にすべてを開示して行うというシステムになっています。つまり、「患者のための最新治療を全力で行うこと」が病院の第一目的となっているのです。また「医療安全対策室」という機関では、極力医療過誤を防止する方策を練り上げ、病院全体に周知しています。このため、医療行為が高度化、複雑化しているにもかかわらず、医療過誤の発生頻度は激減しています。これも「安全な治療」を目指した病院全体の姿勢の表れなのです。

上記疾患でお困りの方、手術をすべきか悩んでいる方は、当科外来を御予約の上受診してください。専門医が対応させていただきます

 

 


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